―「女性性器切除」―
女の子の命をも奪う、有害な慣習を終わらせるには。

日本人にも、コーヒーの産地として馴染みの深いエチオピア。そこでは、74%の女性が「性器切除」という慣習の被害を受けていることをご存知でしょうか。

幼い女の子の性器を切除するこの慣習は、激痛や感染症、さらには大量出血によるショック死をもたらすこともありますが、地域の文化や人々の考え方と結びつき、根強く残っているのが現状です。
 
 今日は途上国で女の子の支援を積極的に行っているプラン・インターナショナル・ジャパンの楠(くすのき)さんに「女性性器切除」の問題について伺ってみました。

※楠さんと現地の女の子(エチオピア)

■今回お話し頂いた方

楠(くすのき)さん

・プラン・インターナショナル・ジャパン在籍19年目
・2017~18年、エチオピアで女性性器切除根絶のプロジェクトの立ち上げに関わる
・現在は、リレーション開発部で主に支援者の方々のサポートに尽力している

「女性性器切除」とはどういうこと?

Q:「女性性器切除」とは、どういうことでしょうか?

 日本ではあまり知られていませんが、エチオピアをはじめアフリカと中東地域で約2000年前から続いている慣習なのです。幼児期から15歳頃まで女の子の性器の一部または全部を切除するもので、多くの場合、伝統的助産師が麻酔や消毒もない環境で、かみそりの刃やナイフを使って行います。

※実際に使われたナイフ

Q:どれくらいの人が女性性器切除を受けているのですか?

 エチオピアは、15歳から49歳の女性の74%が施術されているという統計があります(※1)。世界でみると、少なくとも2億人が女性性器切除を受けており、うち4400万人は15歳未満となっています(※2)。エチオピアでは、政府が2004年に法律で女性性器切除を禁止しているものの、心身に及ぼす弊害は一般の人々にはほとんど知られておらず、今も広く続けられています。

「切除を受けたあと、私はずっと泣いていました」と語る13歳の女の子(エジプト)

Q:どんな被害があるのか教えてください。

消毒を用いないことにより感染症のリスクがあることや、出産時に合併症や死産のリスクが高まることが挙げられます。最悪の場合、切除を受けている最中に大量出血により幼い女の子が命を落としてしまうこともあります。また、突然やぶの中などに連れていかれ、麻酔なしで性器を切り取られる激痛とショックは大きく、心身ともに大きなダメージを残します。

なぜなくならないのか

Q:なぜ、今でも続いているのでしょうか?

人々の考え方や文化と結びついた慣習として地域に根強く残っているからなのです。女性性器切除をしていることが結婚の前提となることや、娘が女性性器切除を受けないことが家族の不名誉として地域から排除されてしまうことなど、地域社会の慣習に深く関係しています。また、女性性器切除を話題にあげることはタブーとされていて、なかなか理解が進みにくいこともあり、根絶は簡単ではありません。

女性性器切除に苦しんだ母親自身も社会規範への妄信・規範によるプレッシャーの中で娘に女性性器切除を受けさせており、根絶させることがとても難しいものなのです。

自らも12歳で女性性器切除を受け、娘にも受けさせたアスナケッチさん(エチオピア)

一例をご紹介します。エチオピアの教師メルキットさんです。彼女は、理解のある家庭に産まれ女性性器切除を施されることなく成長しました。しかしながら、結婚する際に義理の母に女性性器切除を強制され、泣く泣く施術を受けることになりました。2週間以上も起き上がることができず、娘を出産したときも難産で大変でした。施術を受けたことをとても後悔していて、今では教師として1人でも多くの女の子を救うために尽力しています。

近年、女性性器切除を禁止する法律等の整備は進んでいるものの、民族の慣習として2000年以上染みついている行為を簡単になくすことは難しいのが現状なのです。

教室で子どもたちに教えているメルキットさん

なくしていくための活動とは

Q:根絶が難しい女性性器切除ですが、どんな活動をされていますか?

女性性器切除を否定することは、住民には自分たちの文化やアイデンティティの否定と受け取られてしまいます。

そのため、プラン・インターナショナルではその地域のリーダーとの信頼関係を重ねていき、まずは水や健康の問題から地域が抱えている課題にアプローチしていきます。信頼関係がある程度構築された頃、文化を否定するのではなく健康被害の観点から、女性性器切除根絶のための意識啓発を行いました。

女性性器切除の根絶のための啓発活動に参加する13歳のディルシャイエさん(エチオピア)

ほかにも、女性性器切除が女の子にとって大人の女性への「通過儀礼」として認識されている地域ではダンスやセレモニーなど、代わりの儀礼を定着させることで、女性性器切除をなくしていくことにつなげています。また、女性性器切除を受けていない女の子は結婚できない、という風潮を変えるべく、男の子や男性の理解もすすめています。

Q:具体的にはどんな成果がみられているのでしょうか?

現地の学校で行われている「子ども議会」を視察しました。日本でいえば「生徒会」にあたるものです。15人の生徒から構成され、子どもたちに関わる様々な問題に対して、主体的に解決策を議論する場となっています。その子ども議会では、現地ではタブーとされている女性性器切除について、オープンに語り合う光景がみられます。

女性性器切除をしていない女の子たちは、「アンカット・ガールズ」と呼ばれています。私が「アンカット・ガールズの子、手をあげて」というと、男の子の前でも少しも恥ずかしがらずに堂々と全員の女の子が「はーい」と明るく元気に手をあげるのです。

これは、プラン・インターナショナルの意識啓発によって、子どもたちが自分たちを傷つける慣習の弊害について理解を深め、オープンに語れるようになったことが大きな成果だと感じています。

Q:今後、取り組んでいきたいことを教えてください。

まだ女性性器切除が根絶できていない村でも活動を行っていきたいです。同じ国、地域でも複数の村にわかれていて、まだまだ支援できていない地域や村が多くあります

プラン・インターナショナルでは、主にエチオピアでプロジェクトを立て、活動しています。女性性器切除を受けた女性のケアやラジオ・新聞などの地元メディアを利用した啓発のイベントの実施、ジェンダー平等に関するトレーニングなど幅広い活動を行っています。

​ただ、1万人程度にしか届けられておらず、まだまだ支援すべき人に支援が届いていないのが現状です。

女性の「尊厳」が守られる世界へ

Q:ご支援者の方に一言お願いします。

女性性器切除根絶の活動は、2017年7月からスタートしていて今も行われています。2000年以上続いている慣習をなくすことはそう簡単ではなく、少しずつ地域に入り、信頼関係を築きながらの長い道のりが続きます。

根絶までには、長い時間がかかります。今日何かやって、明日に変化がみられるものではありません。小さな変化をあたたかく見守っていただけると嬉しいです。エチオピアの女の子たちのために、今後も継続的なご支援をお願いいたします。

「遠い国の女の子の親になる」

プラン・インターナショナルは、2019年3月から「遠い国の女の子の親になる」というキャンペーンを展開しています。

過酷な現実を生きる女の子たちに必要なのは、一時的な援助やあわれみではありません。彼女たちは、世界を変える力とそれを実現していくたくましさを持っています。必要なのは、その大きな力を開花できるように、支え、見守りながら彼女たちの可能性を育てていく存在。

プラン・インターナショナルでは、そんな存在を「親」と呼び、毎月の寄付で遠い国の女の子を応援することを呼びかけています。

〈キャンペーンページ〉
遠い国の女の子の親になる

※1,2 Female Genital Mutilation/ Cutting: A Global Concern (UNICEF, 2016)